個人医院の相続税対策

個人医院の場合、院長に相続が発生すると全ての財産が相続税の課税対象となります。財産の中には、医療機器、医院内装、MS法人への貸付金など換金化できないものも多数含まれます。よって、手持ちの現預金や不動産だけを考えていると相続税が意外と高く、思いがけぬ出費となることがあります。相続発生後も医院を存続させるのであれば、相続税対策として第一に検討すべきことは医療法人化となります。

医療法人の相続税対策

医療法人には２種類あり、それによって相続税の取り扱いが異なります。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

持分あり医療法人（経過措置型医療法人）

平成19年4月に医療法が大幅に改正されるまでは、ほとんど全ての医療法人には持分が存在していました。「持分あり」とは、医療法人に残った財産が最終的に出資者個人に帰属するという意味です。現在でも全57,000件中37,000件ほどが持分を有する医療法人です。持分あり医療法人の場合、医療法人に残った財産は、出資額に応じて払い戻される権利を有していることから、相続、贈与時には一般企業の株式に準じて評価がなされます。

持分なし医療法人（基金拠出型医療法人等）

平成19年4月以降に設立された医療法人は持分という概念がありません。その大半は基金拠出型医療法人です。
持分がない＝個人の固有の財産ではない、という理屈から、医療法人に蓄積された利益には機器部分を除いて相続税が課税されません。よって、将来ご子息が医療法人の理事長になることが決定しているのであれば、医療法人に利益を蓄積することで相続税による多額の出費を防ぐことができます。

持分放棄は慎重に

なお、「持分あり」から「持分なし」に移行することも可能です。これを持分放棄といいます。移行に際して、以前は多額の贈与税、相続税が発生していましたが、現在では認定医療法人制度を利用して、無税で移行することも可能となっています。しかし、これは財産を事実上放棄する行為となりますので、極めて慎重に検討すべきです。また、ガバナンスの観点から、移行するとしても、不動産などの重要な財産はオーナーサイドに帰属させることをお勧めしています。

POINT

持分あり　→　持分なしは移行できる
持分なし　→　持分ありには戻れない
持分は財産なので、一度放棄すると取り戻せない
目先の相続税を減らす目的だけで移行すると思わぬ損をすることがある。

トラブルになりやすい「財産の分配」

昨今は医学部の人気が高騰しており、仮にご子息が3名いたとして、3名とも医師になれる確率はかなり低いのが現状です。また、医師になったとしても医院を承継するのは1名ですから、他の2名は外に出ることになります。
相続が発生した場合、基本的には次期院長が多額の財産を相続することになります。すると、兄弟間で相続した財産の多寡について争いが起こることが多々あります。典型的なのは遺留分の損害請求ですが、特に私たちの経験では非医師からの訴えが多いです。
よって、将来相続させる財産に兄弟間で偏りが生じるのが決定的であれば、争いが起きないように生前対策を講じておく必要があります。また、不幸にして争いが起こった場合も金銭的に解決できるようにしておくのがベターです。
具体的には計画的な生前贈与、生命保険の活用、遺言信託を行うことが多いです。アップパートナーズには事業承継、相続税対策、生命保険それぞれの専門家を配置しておりますので、安心してご相談ください。

相続税対策で2億8,000万円の節税を実現

ある医療機関では、近隣が開発され、医院の土地評価も高騰したため、相続税が3億円ほどかかることが判明。ただし、将来医療法人を売却する可能性があるため持分放棄はしたくない（持分ありで継続）とのご相談がありました。
そこで、アップパートナーズでは下記の施策を実施しました。
①メインの建物で鑑定を実施し、MS法人に売却。売却損2億円を計上（売却時に信託を活用）
②適正な賃料を支払うことで、法人の利益の一部がMS法人に移転
③理事長の退職時期を5年後に設定し、それまでに各種の設備投資、介護施設の修繕等を実施
結果として、2,000万円ほどの納税で持分の贈与を完了させることができました。
なお、建物売却には信託を活用したため、建物移転にかかる税金等の付随費用は200万円ほどで済みました。また、MS法人では約5,000万円の消費税還付を受けることができました。