
2026.07.01更新
経営は「運」と「ご縁」
2026.07.15公開
先日、小倉の実家を手放すことになりました。60年前に祖母が建てた小さな下宿屋です。下宿人のほとんどは九州歯科大学の学生さんで、兄弟のいない私にとってはまるで兄のようでした。多くの思い出が詰まった、何ものにも代えがたい価値のある建物ですが、市場で評価される価格は決して高くありませんでした。少し寂しい気持ちになりましたが、改めて感じたことがあります。
物の価値は、自分が決めるものではなく、欲しいと思う人が決める。
以前、9,000円ほどで購入したウイスキーが、何気なく見ていたヤフオクで100万円近い価格で取引されていて驚いたことがあります。私にとっては「少し珍しいウイスキー」という程度の認識でしたが、欲しい人にとっては100万円でも高くないのです。そういえば、大学時代に35万円で買ったバイクも、今買うと110万円ほどするようです。価値とは、自分の思いだけで決まるものではありません。相手がどう評価するかで決まるものなのだと実感しました。
会社を評価する数字
実は、これは会社も同じです。最近はM&Aが増えていますが、経営者は当然ながら自分の会社に愛着があります。しかし、買う側は感情を捨てて数字を見て会社を評価します。その数字を最も分かりやすくまとめているのが貸借対照表です。よく税理士仲間と話すのですが、財務内容の良い会社の貸借対照表は、とてもシンプルです。科目を見れば、どんな商売をしている会社なのか想像がつきます。
一方で、会社と個人のお金が混在している場合などは、仮払金や立替金、役員貸付金など、説明しなければ分からない科目が増えていきます。「損益はスタッフが、貸借は経営者が作る」とよく言いますが、貸借対照表は第三者が会社を評価するための基礎資料でもあります。
信頼と管理は別物
そして、お金の管理が曖昧な会社では、不正も起こりやすくなります。「うちの会社に限って」そう思われる方も多いでしょう。もちろん、スタッフを信頼することは大切です。しかし、信頼と管理は別の話です。
以前、ある会社で実際にあった事例ですが、購買責任者(役員)が取引価格を水増しし、さらに架空の外注費を計上して、その差額を長年自分のものにしていました。発覚した頃には被害額は億単位になっていました。さらに問題なのは、その後です。
税務調査では、その架空の外注費は会社の経費としてもちろん認められません。法人税や消費税の修正が必要になるだけでなく、このようなケースでは35%の重加算税が適用されることがほとんどです。会社はお金をだまし取られただけでは済まず、多額の追徴課税まで負担することになるわけです。
また、スタッフが会社のお金を使い込んだ場合、その金額はすぐに会社の経費にはなりません。会社から見れば「返してもらう権利」、つまり回収すべき債権(資産)として処理されます。回収できなければ、退職金との相殺などで整理することになりますが、会社にとっては大きな損失です。
ですから、経営者の皆様には時々で良いので数字を見ていただきたいと思います。毎日経理を見る必要はありません。取引先への支払いが急に増えていないか、同じような外注費が毎月続いていないか。そんな視点で試算表や総勘定元帳を確認するだけでも多くの不正は未然に防ぐことができます。
また、キャッシュレス化をすすめて現金を扱う機会を減らし、デジタルで記録が残る仕組みにすることも有効です。マネーフォワードなどのクラウド会計を利用すれば、外出先からでも試算表や帳簿を確認できます。経営者が数字を見る機会が増えること自体が、不正の抑止力にもつながりますのでご一考いただければと思います。
会社の価値を高める
思い出の価値は、プライスレスです。
一方で、会社の価値は日々の活動、管理によって高めることができます。しかし、その価値は、自分ではなく相手が決めるものです。
だからこそ、誰が見ても分かりやすい決算書を作り、お金の流れを見える化すること。その積み重ねが会社への信頼となり、さらなる価値につながっていくのだと思います。
PROFILE
Takuma Suga
代表社員税理士
菅 拓摩
はじめまして 福岡から長崎までわりと広域に活動している税理士です。 社員300名いますが、経営者としても、税理士としても修行中です。