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※この記事は、アップパートナーズグループが発行する医療機関向け経営情報誌「季刊CMS No.17(2025年5月20日発行)」で掲載した弊社代表税理士の菅と相続事業承継専門の税理士・行政書士の豊福による対談です。

税理士法人アップパートナーズ 相続事業承継専門税理士・行政書士の豊福(左)と代表社員税理士の菅(右)
税理士。行政書士。福岡天神・相続事業承継オフィス所長。北九州市出身。同志社大学法学部卒業後、国家公務員や大阪の税理士事務所勤務を経て、2013年に税理士法人アップパートナーズに入所。
税理士法人アップパートナーズ 代表社員。税理士。1973年生まれ。会計事務所での勤務を経て、2003年に開業。2006年、税理士法人へ移行。
菅:本日は税理士法人アップパートナーズで相続税領域の支援サービスを牽引してくれている豊福と「医療機関の承継と相続」をテーマにお話ができればと思います。はじめに、簡単に自己紹介をお願いします。
豊福:私は2013年にアップパートナーズに入所しました。税理士資格と行政書士資格を保有しておりまして、現在は相続税、事業承継を専門にお客様を支援しています。
菅:それでは早速本題に入ります。まずは医療機関全体の6割以上を占める「持分あり医療法人」について聞かせてください。
豊福:持分あり医療法人の事業承継のお話は、なかなか円滑に進まないといつも感じています。やはり、現在は株価も高騰していますから「どのように持分を承継していくべきなのか」という相談をよくいただきます。
菅:どこがボトルネックとなり、スムーズに進行できないと感じていますか?
豊福:「本当にMS法人に医療法人の持分を持たせてもいいの?」という質問はよくされますし、やはり医療という特殊な事業であることの影響は少なくありません。また「他のドクターはこんなやり方はしていない」「運営に失敗したと思われたくない」など、周囲のネットワークと関連した感情がネックになることも珍しくありません。そのようなケースではスキームを説明しても「ちょっと考えます」と保留されてしまい、前進しないケースは多いですね。
菅:医療法人だからこその特性は確かに存在します。持分あり医療法人と一般的な株式会社を比較すると、株価を下げにくいことは間違いありませんよね。例えば、医業に関係しない不動産や、航空機リースなど、いわゆる節税商品は全く活用できません。だからこそ一般の株式会社であれば4~5年あれば終わる承継対策も、10年スパンで考える必要があることが、持分あり医療法人における特徴だと考えています。
豊福:一般的な事業会社であれば、そのような節税商品を購入して単年で赤字にすることで、株価を下げることができます。では、節税商品を購入できない医療法人に何ができるのかといえば、全額損金に算入することができる退職金を支払うという話になりますよね。でも、実態としては多くの理事長先生が早期勇退はされず、長くお仕事をされます。
菅:退職金を設定する相談の際、多くのドクターが「65歳で引退する」と想定するんです。ところが、豊福さんから指摘があった通り、65歳で引退される方はほとんどいないのが実情ですよね。75~80歳の間で引退される方が最も多く、80歳以上まで働く方も少なくないんです。すると、退職金の支払いのために保険を活用しようとしても、実際に引退して退職金を支払う時期と解約返戻金のピークがズレてきてしまうわけですよね。
豊福:そうですよね。
菅:とはいえ、もちろん納税資金を準備せず、借金でまかなうのは承継する次の世代にとって好ましくありません。最近では、私たちもかなりの数のご支援をする中で実態が掴めてきましたので、65歳を超えると急激に解約返戻率が下がる保険はそもそも提案しないようにしています。このような保険商品の選定は、持分あり医療法人に特有の考え方だと思いますね。
豊福:持分あり医療法人に限った話ではありませんが、原則として医師免許を取得しなければ承継できない点も見落とせません。実際にあった事例なのですが、院長先生には三人のお子様がいらっしゃいました。ただ、一番目のご子息は医師免許の取得ができずに、一般の会社員としても働いていないという状況だったのです。次男の方は医師免許を取得して、ドクターとして勤務されていました。お兄様が継げないのであれば、自身が承継してもいいと覚悟もされていたんです。このような場合、私たちからすれば次男を承継候補として進めるのがセオリーです。ところが、院長先生は親心として長男に継がせたいという意向をお持ちでした。「医療法人の持分やMS法人の株式を長男に持たせたい」という思いから、次男への承継をなかなか納得してもらうことができませんでしたね。
菅:その事例も「行き当たりばったり」であることが否めませんよね。
豊福:「出たとこ勝負」の印象を受けるケースはとても多いです。引退間際の年齢に差し掛かっても対策をしていないケースが非常に多いのが実情です。やはり、10年くらいの視野を持って取り組んでいただきたいですよね。
菅:特に所得の高い医療法人、例えば純資産が5億円、10億円などと積み重なっていれば、退職金だけでは生前贈与が完了せず、遺留分の問題が発生しますよね。
豊福:この事例のように兄弟の中に医師免許を取得していない方がいらっしゃるケースで、遺留分をどのようにすべきか理解されていないケースも少なくありません。
菅:そうなんです。例えば長男がドクター、次男が非医師である場合に、院長先生が自身に生命保険を掛けて、保険金の受取人を医師免許を持っていない次男に設定することがよくあります。私はこれを「誤りである」と強く主張したいのです。次男に現金を遺したい心情は理解できますが、遺留分の観点で考えると「大きな間違い」だといっても差し支えありません。次男が遺留分を請求する可能性を考慮した場合、長男に医療法人を承継させるだけでは現金の支払いができないケースが発生しかねません。ですから、保険金の受取人はドクターである長男にすべきなのです。「長男には病院を継がせるし、次男には保険金が入るから問題ない」と考えている院長先生は、まだまだかなりの数にのぼるでしょう。この考えを見直すべきであることは強くお知らせしたいですね。
豊福:長いスパンで考えて、配偶者や次の世代のご子息にまず所得分散をきちんとする重要性についても、もっと知っていただきたいですね。
菅:その通りです。そもそも、理事長のご家族が働いても給与が低いケースがとても多いと感じています。医療法人化しても、専従者給与と同水準の給与しか支給していないことも珍しくありません。
豊福:「顧問の税理士から高い給与を出したらダメだと止められる」とドクターから耳にすることはとても多いです。
菅:だからこそ、医療法人支援の実績が多い会計事務所や国税OBにもっとセカンドオピニオンを聞いてみてほしいんです。その上で院長先生が総合勘案すればいいと思いますね。
豊福:同じように「MS法人を設立してはいけないんだ」と考えているドクターの数も無視できません。
菅:「MS法人を設立して利益を移転することを厚労省が積極的には推奨していない」というのは確かにその通りです。ただし、それは「取引が適正でなければならない」という考え方によるものです。例えば家賃の取引も適正な価格であれば問題にはなりません。「適正な取引であれば問題ない」という部分を無視した、いわば「切り抜き」の情報で「MS法人は作れない」と認識しているドクターもいるのではないでしょうか。相続についてはMS法人をお子様の出資で設立し、MS法人が医療法人の持分を持つように再編する手法もあります。
豊福:その部分に関しては「承継が完了している」ことになりますから、とても大きなメリットですね。
菅:「消費税が高くなったから」とMS法人を逃避するドクターもいるかもしれません。それは消費税がかからないように設計すればいいわけです。さらに言えば相続税を納付することと比較すれば、消費税を払ったとしても大きな金額を節税することもできるわけです。
豊福:是非シミュレーションをしてみてほしいですね。

菅:次に「持分なし医療法人」について考えてみたいと思います。
豊福:持分なし医療法人の最大のメリットは、相続税が不要である点ですよね。
菅:間違いありませんね。しかしながら、社員の構成には最大限に注意が必要です。ご子息を揃って社員にしてしまうことで、本当に引き継がせたかった子供が多数決で追い出されるという可能性が出てきてしまうわけですよね。
豊福:実際にそのような問題は起きていますよね。
菅:私は先日、分院展開している院長先生に相談をされました。必要性はないのに、理事のドクター全員を社員にしてしまっていたんです。そして「私が追い出されてしまいそうです」と理事長先生から相談される事態となっていました。
豊福:社員となってしまえば抜けてもらうのは簡単ではありませんので、トラブルになりかねませんよね。
菅:ただ、きちんとガバナンスを効かせさえすれば、医療法人に留保をするだけで次の世代に財産を引き継げる点は大きなメリットであるわけです。もちろん、純粋な個人財産として引き継げるわけではありませんので、正確な説明は必要となってきます。
豊福:多くのドクターが気にしているのが「残余財産が国に取られてしまう」という話ではないでしょうか。「本当のところどうなの?」とはよく聞かれますね。
菅:厚労省は積極的に残余財産を没収しようとしているわけではありません。そのような事態にならないことを優先しますから、例えば親族が運営している近隣の医療機関に残余財産を帰属させることも選択肢の一つとなるわけです。そもそも、基本的には退職金を支払うことで残余財産の一定のコントロールはできるわけですから、必要以上に恐れる必要は全くありませんね。「事故や大災害で、関係するご一族全員が死亡してしまった」というような事態でも起きない限り、財産の没収は起こらないであろうと私はセミナーなどでお伝えしています。
菅:最後に「理事長個人の相続」にフォーカスしてお話を伺います。
豊福:まずは節税を考える以前に、円満に相続を迎えることが最優先ですね。不動産が絡んでいることも多く、遺言書だけではなく、家族信託の活用も認知症対策として取り入れてほしいと提案しています。家族信託は耳慣れない方も多いかもしれません。もし院長先生が認知症の診断をされてしまうと、不動産を売却したり、不動産の大修繕をしたりする際の契約などの法律行為が原則できなくなってしまいます。遺言書の効力が発動するのは本人の死後ですが、家族信託であれば事前に取り決めた受託者が不動産を含めた財産を管理することが可能です。つまり、お子様の誰かを家族信託の受託者に決めることで、任せたご家族がご本人に変わって財産の管理ができるわけですね。
菅:認知症を患ってしまうと対策は全てストップしてしまいますし、税務署も否認しますから家族信託は非常に有効な手段ですよね。次に節税に目を向けた場合はいかがでしょうか?
豊福:まず一つは不動産の活用を提案しています。ただ、不動産を活用した節税にも注意が必要です。例えばいわゆる「タワマン節税」も現在はかなり厳しくなっています。これは喜ばしい話でもあるのですが、節税目的で購入した20階建て程度のマンションでも、あまり節税にならない実態があります。それは東京や大阪だけではなく、この福岡でも評価額が向上しているからです。それはタワーマンションに限った話でもありません。ドクターからよく「持っている不動産はちゃんと評価してもらったから大丈夫」と言われるんです。ただ、よく話を聞いてみるとその評価が実施されたのは10年前のことだったというケースがあります。現在の不動産評価額は、5~6年前と比較しても大きく変化しています。「もう一度改めて評価をしましょう」という提案を最近ではよく行っていますね。実際に再評価してみると当時の想定よりも多くの相続税が発生することがわかり、対策が不足しているケースも珍しくないのです。
菅:節税を目的に、やみくもに不動産を購入することも考えなければいけませんよね。「節税になるから」と購入した土地が不便な立地で後に売却ができなければ、例えば相続税の額面が下がったとしても、将来的に困るのはご子息です。
豊福:今でも70歳、80歳の方が「節税になるから」と個人で借入して不動産を購入するケースは散見されます。確かに相続税は大きく下がります。ただし、その物件が将来にわたって収益を生み出せるかまでシミュレーションは必須だと感じますね。
菅:今は人手不足の時代ですから、法人か否かに限らず、スタッフの社員寮として物件を購入するという手段も考えられますよね。
菅:一方で、不動産よりもキャッシュで資産を持ちたいというドクターも少なくありません。ただし、当然ながら100%の額面で評価されてしまうという問題がありますよね。
豊福:キャッシュの資産は分割がしやすく、トラブルになりにくいというメリットがあることは事実です。そのキャッシュの相続税を圧縮するにはやはり生前贈与の活用が望ましいですね。例えば贈与であればお子様だけではなく、その配偶者、お孫さんに年間110万円贈与して無税にした事例がありました。
菅:「年間110万円までの贈与なら非課税」という点にこだわり過ぎるのも問題だといえますよね。
豊福:「年間110万円」にこだわり、「それでは数百年かかってしまいますよ」というケースを実際に目にすることがありました。結局、相続税であれば50%かかるところ、年間500万円贈与しても税率は10%弱に収まるわけです。こうした点を冷静に判断していくことは大きなポイントですよね。
菅:本日はありがとうございました。個人経営のドクターにとっては、医療法人化も大きな承継対策になる点を付け加え、本稿の締めといたします。法人化や様々な相続対策に興味がある方は、お気軽にご相談ください。

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